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共存の道を行く欧州  「ミニ世界連邦」EUの壮大な実験

『よくわかる世界連邦』ー監修によせてー

城 忠彰(じょう ただあきら)
広島修道大学教授(国際法)/世界連邦(WFM)国際本部理事

城 先生

非核兵器地帯について研究するため、客員研究員として滞在したSIPRI(ストックホルム国際平和研究所)で。
同僚と会議の後で懇談する筆者(右から2人目、2004年)

 市民や学生の皆さんに「世界連邦」の建設の理想を語るとき、時として、「そんな荒唐無稽なことを」という冷笑に晒されることがあります。

 はたして、世界連邦構想は国際社会の現状を無視した見果てぬ夢なのでしょうか。


単一通貨のユーロ

 2004年5月、欧州連合(EU)は新たな10カ国が加盟し、25カ国体制になりました。当時ストックホルム(スウェーデン)に滞在していた私は、バルト海を船旅してヘルシンキ(フィンランド)に出かける機会がありました。スウェーデンとフィンランドは加盟国どうしで、入国に際してはパスポートの提示は不要です。また、フィンランドではデンマークやフランスと同じく、単一通貨のユーロが使用されています。

 しかし、両国の間では長い戦乱が続き、今日では平和愛好国として賞賛されているスウェーデンが、数百年にわたってフィンランドを武力支配していたという事実は、あまり知られていません。フィンランドでは現在でもスウェーデン語も公用語とされているということに、わずかにその痕跡が残るのみです。

 また、ノルウェーにも旅してみましたが、両国は国民の自由通行を認める条約(1985年に締結されたルクセンブルグの村の名前にちなみ「シェンゲン協定」といいます)の締約国なので、出入国は楽でした。両国の激しい戦争の歴史からすると、隔世の感がします。

 ちなみに、欧州の戦禍に巻き込まれることを防止するために「永世中立国制度」によって自国の安全を保障してきたスイスは、2002年、孤高の地位を転換し国連に加盟するとともに、2005年にはシェンゲン協定にも署名しました。欧州連合は、現在その批准問題で条約化が一時中断しているとはいえ、加盟国の主権をいっそう制限し連邦制を強化する内容の「欧州憲法」を制定し、この地域の「ミニ世界連邦」の実現という壮大な実験を加速させています。

ストックホルム

ストックホルム港(スウエーデン)


劇的な欧州の変化

 哲学者のイマヌエル・カントが、相次ぐ欧州諸国間の対立や紛争を憂いて、世界法や世界常備軍の創設により欧州の平和と安定を確保すべきであるとして、「永遠の平和のために」を発表したのは1795年でした。二百年前、誰が今日の欧州の状況を想像しえたでしょうか。

 同じように、世紀末でいえば、ベルリンの壁の崩壊が象徴する東西冷戦の終結や、「鉄のカーテン」の向こうでワルシャワ条約機構の一員であったハンガリーやチェコの欧州連合加盟が、これほど短期間に達成されるとは誰が予測しえたでしょうか。さらに欧州連合では、イスラム教国のトルコの加盟や、旧ソ連邦の一つであったウクライナの加盟も検討されているところまできています。

 また私は、2005年3月、前年のスマトラ沖大地震とインド洋大津波の傷跡が生々しい東南アジアを訪れ、マレーシアのマラッカから対岸のインドネシアをのぞむ機会がありました。マラッカ海峡は最も狭いところで幅6百メートル程度しかありませんが、全世界で取引される石油の半分は、ここを通過するタンカーによって輸送されているという交通の要路でもあるわけです。

 このマラッカ海峡では現在、海賊による船舶の襲撃事件が多発し、その取り締まりが深刻な問題になっています。日本のタグボートが襲われたことも記憶に新しいところです。

 国連海洋法条約によって、いずれの国家も海賊に対し警察権を行使できることになっていますが、両国にシンガポールを加えた3国の領域が隣接し複雑に絡み合っているために、互いの主権侵害を懸念し徹底的な捜査・逮捕・警備ができないことから、海賊の排除が困難を極めているというのが実情なのです。

 この3国が加盟する東南アジア諸国連合(ASEAN)は、地域での加盟国間の友好協力を促進しているものの、基本的には主権国家という枠組みを温存しており、今のところEUのような政治統合のプロセスには至っていません。両者を比較して、国際安全保障の面でどちらが優れた装置であるかは一目瞭然です。


人為的な国境線

 しかし、世界には国益や主権がもっと対立し、民族紛争や領土紛争に起因する軍事的緊張や実際の武力衝突に直面している地域も少なくありません。航空機からアラビア半島を見下ろしても、中東諸国の国境線を発見することはできません。また竹島や尖閣列島や北方4島を見ても、ある国のカラーで彩色されているわけでもありません。

 それらは、地球誕生以来の期間からすると、つい最近になって人間が人為的に主張し作成したものに過ぎないのです。古典的な領有権や国境に拘泥し、いたずらに抗争を激化させることは、長期的に見て、関係国の国民の福利や平和を必ずしも倍加させることにはならないのです。

 たとえば、「京都府と近隣の県が特定の利害をめぐって争い、膨大な軍事予算を使って維持してきた軍隊を県境に集結させる」事態など、考える余地はありません。そうした隣接自治体の関係のような仕組みを国際社会において構築していこうとするのが、世界連邦運動の理念であるわけです。前述した私のささやかな海外での知見も、私が世界連邦建設の必要性、緊急性、実現可能性を確信する根拠の一部と考えています。


宗教者の連帯と和解もカギ

 本書(『よくわかる世界連邦』)は、そうした世界連邦の考え方やメカニズムをできるだけ多くの人に知ってもらいたいというねらいで編集されたものです。

 世界連邦の理念が理解されたとしても、次にはどのような方策や過程を経て実現していくかというロードマップ(行程表)が検討されなくてはなりません。また、国家の並存関係を基礎にしている冷厳な国際政治の中で、世界連邦を実際に創出していくためには、さまざまな局面で相当のエネルギーを傾注する努力が必要です。

 何よりも、民族・文化・宗教・習慣・社会制度などを異にする世界中の人々が相互に理解し合い、地球市民としての認識に立って共生の方途を希求し続けることが大事になってきます。とりわけ世界の宗教者の和解や連帯も世界連邦の実現の成否の鍵を握っているということができます。

 その意味で、世界の諸宗教間の協力を通して世界平和の確立を目指している、人類愛善会という団体によって本書のような刊行物が上梓されたことの意義は、非常に大きなものがあります。本書が関係の皆さまだけでなく、広く一般市民の方にも読み継がれ、世界連邦運動のより一層の普及と発展の一助になることを念願しています。

EU旗

EU旗。 個の星はEU発足時の原加盟国数を表している

EU地図

 EU(European Union)ー欧州連合。第2次世界大戦後、資源を巡る国どうしの争いを避ける目的で1952年に欧州石炭鉄鉱共同体(ECSC)が誕生。それを母体にEEC(欧州経済共同体、58年)、さらにEC(欧州共同体、67年)へと発展。そしてさらに93年、欧州連合条約(マーストリヒト条約)に従い、EUが生まれた。現在25カ国が加盟。統一通貨「ユーロ」を実現し、欧州憲法の制定、欧州大統領の選出も進めるなど、従来の国際機関などとは全く違う、一つの国家のような形態をめざしている。
 現在の加盟25カ国は次の国々。オーストリア、ベルギー、キプロス、チェコ、デンマーク、エストニア、ドイツ、ギリシャ、フィンランド、フランス、ハンガリー、アイルランド、イタリア、ラトビア、リトアニア、ルクセンブルグ、マルタ、ポーランド、ポルトガル、スロバキア、スロベニア、スペイン、スウェーデン、オランダ、イギリス。

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