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『主張』 大地と農の偉大さに感謝を |
昨今、家庭崩壊や若年層による凶悪犯罪の増加が著しい。それは、農業など第一次産業の衰退に反比例して加速しているように思える。
20世紀の初め、ロシア婦人エリザ・R・シドモアは、松山近郊の日本の農民の生活態度を記している。彼女の夫はロシア軍将校。日露戦争で日本軍の捕虜となり、四国の松山の捕虜収容所へ送られた。その彼の看病にきたエリザは、日本人と親交を持った。
エリザの手記『日露戦争下の日本』(小木曽龍・小木曽美代子訳、新人物往来社)に次のような、ロシア人捕虜の言葉がある。
「日本人にとって田畑での労働は、立派な創作活動なのだ。農作業に対する愛情のために、農作物や田畑に惜しみなく注がれる労働。僕たちのところの農民は、ただ機械的に耕し、種を播き、刈り入れるだけだ。筋肉を使うだけで、そこには心や情け、思い入れなどまるでない。(中略)日本人は稲を自分の子供のように可愛がる、稲の束をあやしてやる、これに話しかける、稲の生育のために神仏に祈る」
それから百年が経過し、日本の農業は商工業の発展と引き換えに衰退。農業技術は機械化と化学農法で近代化されたが、かつてエリザが見たような、作物と人間とを結ぶ精神的な絆は希薄になった。人と人との絆も薄れ、犯罪が著増した。
いつのころからか、我々親たちは子供を自然から遠ざけてしまっているのではないか。子供たちに農業体験を通して農作物の命を感じ取り、生き物に対する愛をはぐくむ場が必要だ。農業は自然に語りかけて心や情けや命をはぐくむ生命産業の、本来の姿を取り戻すべきだ。
京都府亀岡市に本部を置く社団法人「愛善みずほ会」は、農を食糧供給だけでなく、人間精神の基であるととらえ、
持続可能な有機農業を戦後間もなくから推進。最近では、市民向けの様々な活動も展開している。
昨年、同会が初心者を対象に開いた農事研修会では、参加者の一人(63歳・男性)が、土に触れた喜びを語っていた。
「『私たちの身体につながる土』に触れる体験できた。それは、私たちの文化の古層にある『音や香り』と触れる体験だった。
子供のころ、遊んでいるとき、足下から自然の音がした。土のなんともいえぬ香りが身体にしみこんでいた。『ごつごつ』『さらさら』『どろどろ』
とした土など、いろんな土が音や香りとともに、私たちの身体を鍛えてもくれた。その土には、想像もできないほどの生命力がこもっていたのだ」
そして、大地から社会を見つめてこう結んでいる。
「日本人の精神が退化していると思うときがある。都市化の中で土と離別し、本物の自然との出合いを失った現代社会が、私たちの精神的退化を強めているのではないか。この研修会で、土は私の生命をはぐくんでいる根源であることを再発見した」
自然や文化、伝統、情緒をはぐくみながら、確固とした人間形成を図り、美しい家族、地域共同体を築く。その『根本道場』とも言える場が、実は農業・農村社会に最も身近な形で存在している。私たちはあらためて、大地と農の偉大さに感謝し、そこに学ばねばならない。
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