コラム一覧へ   TOP 


誰にでもわかるパレスチナ問題(その56) 

NPO法人大本イスラエル・パレスチナ平和研究所
主任研究員 矢野裕巳


  (その1)   (その2)   (その3)   (その4)  (その5)   (その6)   (その7)   (その8)   (その9)   (その10)

(その11) (その12)   (その13)   (その14)   (その15)   (その16)   (その17)   (その18)   (その19)   (その20)

  (その21)   (その22)   (その23)   (その24) (その25)   (その26)   (その27)   (その28)   (その29)    (その30)


  (その31)   (その32)   (その33) (その34) (その35)  (その36)   (その37)   (その38)   (その39)    (その40)


  (その41)   (その42)   (その43)   (その44)   (その45)   (その46)   (その47)   (その48) (その49) (その50)




(その51) (その52) (その53) (その54) (その55) (その56) (その57)    (その58)   (その59) (その60)


(その61) (その62) (その63) (その64) (その65)    




”敵の敵は味方?”





”パレスチナ内部の紛争”

 現在まさに進行中のパレスチナ問題を考える場合、対イスラエルのパレスチナ内部が2つに分裂している事が重要な点である事を前回書きました。2008年末に始まったイスラエルのガザ攻撃はパレスチナに対するものではなくハマスに対するものでした。
 現在のパレスチナ問題の焦点の1つはハマス対ファタハの権力闘争です。ヨルダン川西岸を支配しているファタハとガザを実効支配しているハマスの争いです。国を持たないパレスチナがパレスチナを代表する組織としてPLO(パレスチナ解放機構)を設立しました。ファタハはPLO内での最大の組織で、長年パレスチナを代表してきた事も述べてきました。




”ハマスはムスリム同胞団から”

photo  イスラエルと対峙するハマスとはどんな組織なのでしょうか?公的な創設は1987年ですが、70年代前半からその前身とも言える組織が作られ、慈善団体的活動を始めます。ハマスはパレスチナ人被害者の救済機関として発足したのです。

 ハマスはまた、エジプトの「ムスリム同胞団」というイスラム原理主義グループの「ガザ支部」でもあります。ムスリム同胞団は原理主義グループの中では、比較的穏健派に属しますが、この分派とよばれる組織が多くのテロを引き起こしています。サダト大統領を暗殺したジハード団、日本人10名を含め63名を殺害した、いわゆるルクソール事件もこの分派であるイスラム集団による犯行だと言われています。

 ムスリム同胞団はシャリーア(イスラム法)による統治をめざし、イスラム国家の建設を目指すエジプトの事実上最大野党です。事実上と言うのは、エジプトでは宗教政党は禁止され、非合法化されているからです。

 選挙では無所属で立候補します。民主化の大きな流れの中で、ムスリム同胞団系の勢力は議会で最大野党の地位を占めています。エジプト現政権にとって、ムスリム同胞団の影響下で設立されたハマスが、ガザで、より大きな力となり、エジプト国内で力をつけてきた反政府組織のムスリム同胞団と連帯を強める事は大きな懸念となっているはずです。
 ファタハとハマスの和解への取り組みに最も力を注いでいるのがエジプト政府であることには、このような背景もあるのです。



”イスラエルがハマスを育てた?”

 イスラエルは70年代後半からハマスの前身である組織に対して直接的、間接的に資金援助してきました。当時PLO(ファタハ)が対イスラエル勢力として民衆の支持を得て、大きな力となってパレスチナ人をまとめる勢力に成長しつつありました。イスラエルはそれを統制する対抗勢力としてハマスを援助したのです。
 世俗的なファタハに対する宗教勢力としてハマスを育成しました。



”アメリカがビン・ラディンを育てた?”

 冷戦時代、米国は共産主義に対する有効な同盟者としてイスラム教徒を利用しました。旧ソ連軍が1979年、アフガニスタンに軍事介入すると、それに対抗するためアフガニスタンだけでなくイスラム世界の各地から志願兵として若者を集めました。
 米国はそのイスラム原理主義者をムジャーヒディーン(自由戦士)として膨大な資金を援助しました。後にアメリカ同時多発テロ事件を始め数々のテロ事件の首謀者とされるビン・ラディンもその一人でした。



”敵の敵は味方 ?”

 支配する国が支配する地域の抵抗勢力を分断し、弱体化させ、内部分裂を促す手法は、歴史上世界中で行われ、そして今でも行われています。かつて多くの領土を植民地化した欧米の国々もその占領地で同じ事を繰り返してきました。
 残念ながらかつての日本も例外ではないでしょう。植民地支配、占領における鉄則かもしれません。敵の敵を味方として援助しながら、その味方が自分の敵になる。人類が歴史上繰り返してきた過ちに、もうこの辺で終止符を打たなければならないと強く感じます。
 和平プロセスが停滞するなか、統一されたパレスチナの代表との交渉がなければ、本当の国の安全を確保できないことを正直に実感しているのは、イスラエル自身であるかもしれません。




※このサイトに掲載されている文章、写真などの無断転載・ 無断複製を禁じます。

前へ   次へ    


TOP