誰にでもわかる世界の紛争(その9)
常務理事・主任研究員 矢野裕巳
”シエラレオネ”
人はなぜ争うのか?
人類の歴史は戦争の歴史であるとも言われます。戦争が悪であると考える人は多いと思います。それでも、今なお世界には多くの紛争が存在し、多くの人達が苦しみ、命の危険にさらされています。世界各地で勃発する争いのいくつかを取り上げ、その背景を広くそして重点的に解りやすく学んでいきましょう。それぞれの紛争の背後にある共通の問題点を共に検証する事が最終的な目標です。
今回は シエラレオネについて取り上げます。
◆ダイヤモンド紛争

2007年、日本で公開された映画「ブラッド・ダイヤモンド」はレオナルド・ディカプリオ主演、シエラレオネの内戦を題材に大ヒットしました。
シエラレオネ共和国は、アフリカ大陸西端近くの、大西洋を臨むリベリアとギニアの間に位置し、面積は北海道と同じぐらいです。人口およそ600万人(2008年)。宗教は60パーセントがイスラム教、10パーセントがキリスト教、残りの30パーセントがアニミズム信仰です。
シエラレオネは人間開発指数ランキング、世界177カ国の中で、176位です(2006年)。
人間開発指数とは、開発、発展、あるい貧困の度合いを総合的に計る数字で、平均寿命、 教育水準(就学率、識字率)、1人あたりの国内総生産(GDP)から計算されます。 上位には先進国が並んでいます。シエラレオネは世界でもっとも貧しい国の1つです。 パキスタンの経済学者マプール・ハクによって作られ、1993年から国連年次報告で公表されています。
2009年はノルウェーが1位、オーストラリアが2位で、日本は9位、米国は13位です。過去30年で、ノルウェー、カナダ両国がほとんど1位を独占していて、日本も1991年、1993年に1位でした。
映画の題名にもあるダイヤモンド。シオラレオネではダイヤモンドが多く採れます。 シエラレオネで最も重要なダイヤモンド産業が、反政府勢力の武器調達資金になっていたので、シエラレオネの内戦は「ダイヤモンド紛争」とも呼ばれています。
◆内戦勃発
16世紀後半に、イギリスの奴隷商人がシエラレオネに来ます。しかし1787年、英国の奴隷廃止論者たちが、解放奴隷をシエラレオネに入植させ、解放奴隷の居住地として都市化しました。その町が現在の首都「フリータウン」です。 1808年英国領になり、1961年独立しますが、政権は安定せず何度もクーデターが起こりました。
解放奴隷の子孫クレオール。クレオールはキリスト教徒に改宗しますが、イスラム系黒人のテムネ族や、土着信仰(アミニズム)のメンデ族と、権力闘争を続けていました。
1991年、政府と、サンコー議長率いる反政府組織「革命統一戦線」(RUF)との間に、長期内戦が勃発します。 RUF(Revolutionary United Front )はダイヤモンド生産地を制圧。採掘したダイヤモンドの密輸で軍事資金を調達。またRUFは、制圧地区の住民をダイヤモンド採掘で強制労働させたり、罪のない人の手足を切断するなどの蛮行により、住民を恐怖に陥れました。
手足を切断された住民は、米の収穫作業が出来なくなり、食料をRUFに頼るようになりました。 政府軍は、食料の道を絶たれ、飢餓状態で、国は不安定化。RUFの狙い通りでした。
RUFによる残虐行為は、国連、人権団体から大きく非難されます。拷問、レイプ、民間人の手足を切断するなどの無差別行為は、政府軍の戦意を喪失させ、住民を服従させるための見せしめだったのです。
◆国連派遣員の拉致
1996年、大統領選挙でアフマド・カバ大統領が就任しますが、1997年、政府軍下級兵士による軍事クーデター、そしてRUFの蜂起により、カバ大統領はギニアへ脱出。 1998年には、西アフリカ諸国平和維持軍の介入により、RUFを駆逐し、カバ大統領は再びシエラレオネに帰還します。
その後、RUFのゲリラ活動は再び激化し、2000年5月、平和維持軍として駐留する、国連シエラレオネ派遣団がRUFの攻撃を受け、派遣団兵士4名が死亡、12名が負傷、およそ500名が拘束。これだけの人数の平和維持活動要員の一斉拘束は、史上まれでした。
その後、国連は平和派遣部隊を増派します。また、駐在英国人の救出を目的に、英国が軍隊を派遣します。 英国は本心、内戦の深みに入る事を恐れ、1週間ほどで撤退する計画でした。しかし、平和維持軍増派完了までの駐留に方針が変更されました。旧宗主国(植民地支配国)として、反政府勢力を押さえ込もうとする政府軍、平和維持軍を見捨てる事が出来なかったのです。
◆チャイルド・ソルジャー
2000年11月、シエラレオネ政府とRUFの停戦が合意。2002年1月、カバ大統領は、武装解除完了を宣言。3月には国家非常事態終了が宣言され、1991年以来7万5千人以上の死者を出した、内戦が終了しました。2002年以降、経済は順調で、農業、鉱業の回復により、国の経済成長率も2008年まで、毎年5〜7パーセントの伸びを示しています。
しかし、11年に及ぶ内戦の後遺症でもっとも深刻な問題は、チャイルド・ソルジャーの心のケアです。RUFによって誘拐され、反政府ゲリラとして兵士に仕立てられた子供たちは、時に両親を殺害し、親戚の拷問や処刑を、強要されました。ほとんどの子供兵士が、一般市民殺害の経験があります。また恐怖心を抱かないように、麻薬が与えられました。そのため、元少年兵士はその多くが、麻薬中毒者だと言われています。
幼少期、残酷な場面に何度も遭遇し、その手で殺戮を強要されたトラウマを、消し去る事は容易ではありません。このような過去を持つ元少年兵は、シオラレオネ国内に5,000人以上いるとされています。彼らの心を治療するための国際的な協力が、さらに必要であり、再び、このような非人道的政策を掲げる、過激派の台頭を許さないためにも、世界が注意深く見守っていかなければならないと思います。
