誰にでもわかるパレスチナ問題(その44)
常務理事・主任研究員 矢野裕巳
新聞、ラジオ、テレビ等で最近毎日のように耳にし、目にするパレスチナ問題、現代の中東問題も、根本原因はパレスチナ問題にあるという報道を聞かれた人もあると思います。
それでは、パレスチナ紛争とは何なのか?また、いったい何が問題なのかを数回に分けて考えてみます。
まずは、おおまかに古代から現代までの歴史を考えてみましょう。
”イスラエルロビーとパレスチナ和平 1”
◆改めて米国のダブルスタンダードを考える
私は以前にも本誌で「米国はイスラエル偏重か?」「米国でのタブーそれはイスラエル非難?」で書きましたが、現在のパレスチナ問題解決への最も大きな障害は米国の対パレスチナ問題へのダブルスタンダード(イスラエルに甘く、パレスチナに厳しい)です。
それでは米国のダブルスタンダードはどこから来ているのでしょうか?
今回から数回に分けてこの問題を考えたいと思います。
◆大統領選出馬への第一声
これはよく言われる事ですが、米国大統領出馬は、異口同音にイスラエルへの支援継続とイスラエルとの友好を宣言することから始まります。
対外的、とりわけ中東での米国のイメージを改善するために、米国はアラブ諸国やパレスチナとイスラエルに対して、より公平な立場をとるべきだと主張する候補者は存在しません。少なくとも本気で当選しようと考える候補者なら。
なぜでしょうか?
◆政治的な力への恐れ
米国の政治家がイスラエルに対してこのようなへりくだった態度を取るのはイスラエルロビーの存在があるからです。
イスラエルロビーとは米国の外交政策をイスラエル寄りにしようと活動する個人や諸団体の連合体です。その大きな目的はイスラエルの主張を米国内で広め、イスラエルの利益となる外交政策が決定されるべく影響を与えようとすることです。国内外の諸問題において意見を異にする候補者が、イスラエル問題に対しては同じ発言になるのは、そうしなければ政治的に大きなハンディを背負う事になるのを恐れているからです。
◆アパルトヘイト
ジミー・カーター元大統領が2006年11月、著書「パレスチナ問題」で、イスラエルのパレスチナ占領政策をアパルトヘイトと呼んで大きな反響を巻き起こしました。加えて、元大統領は親イスラエル派の諸団体、いわゆるイスラエルロビーの存在によって米国がイスラエルに圧力を加え、譲歩を得る事ができずに和平達成を困難にしてきたと公言したのです。
そのことで、彼はイスラエルロビーから反ユダヤ主義者の非難を受けました。この著書に対する賛否は当然ありますが、長年パレスチナ問題に取り組み、真に和平を願うカーター元大統領の気持ちは十分に伝わる内容です。少なくても反ユダヤ主義の観点からこの本をとらえることは出来ないでしょう。
◆all or nothing
ユダヤ人に関する主張は両極端に偏っています。世界の中でユダヤ人は途方もない影響力をもっており、時にそれは世界を支配するという破天荒な理論が普通に語られる事もあります。それに反してユダヤ人の影響力をまったく認めず、そのようなものは存在しないとの考え方もあります。
しかし、ユダヤ人の影響力を過小評価すべきではないでしょう。米国3億人の人口のなかで、22パーセント弱の約600万人といわれるユダヤ系の、あらゆる分野におけるその存在力は計り知れないものがあります。米国のイスラエルに対する並外れた物質的援助と外交支援の現実をみてもイスラエルロビーの存在を無視できないでしょう。と同時にイスラエルロビーが米国のすべての政策にその影響力を行使できているわけでもありません。バランス感覚をもった議論が必要とされています。
◆ロビー活動は違法ではない
ロビーの日本語訳は「圧力団体」「利益団体」そこで働く人をロビイストと呼びます。ロビイストは圧力団体、利益団体の代理として、政党や議員、官僚、さらには世論に働きかけて、その団体に有利な政治的決定を行なわせようとする人です。よく知られている団体には ”全米退職者協会” (AARP) , 全米ライフル協会(NRA)等があります。日本でもよく知られている NRAは、銃器製造、販売業者、銃愛好家などで構成され、銃規制法案が議会に提案されると、法案成立を阻止するよう強力にその影響力を行使していきます。ワシントン政界でのアルメニアロビーの活動もよく知られています。
1915年、オスマントルコで起きたアルメニア人大虐殺(ジェノ サイド)を国際的に認めさせるよう強力に活動を続けています。ある団体、ある外国政府がロビー団体を使って他の政府に影響を与え、外交政策上の目的を達成しようとするのは正当な活動だと認められています。すべてのロビー団体が世論に影響を与えたいと考えています。イスラエルロビーも基本的にこれらと同じような活動を行なっているわけで、秘密結社や陰謀集団ではありません。
◆和平への障害
問題となるのは、カーター元大統領の主張通り、強力なイスラエルロビーの存在で、米国が公平な仲介者になれない現実が存在することです。これはイスラエルにとっても大きくマイナスに働いています。一例として、イスラエルへ旅行された方は理解できると思いますが、この地域の観光地としての潜在力です。より平たく言えば、もしイスラエルやパレスチナが平和であれば、また平和のイメージが高まれば、世界中からの旅行者で繁栄しているでしょう。
多くのキリスト教徒、イスラム教徒、ユダヤ教はその宗教的情熱からもこの地を訪れるでしょうし、信仰心を持たない人も、1度は訪れたい地域だと思います。様々な問題がからんでいて、単純には言えませんが、イスラエルにとって平和ほど経済効果をもたらすものはないでしょう。イスラエルロビーの活動がパレスチナやアラブ周辺国の反発を引き起こし、和平への障害となっている現実は、長期的にみてもイスラエルの国益に反しています。次はより詳しくこの問題を考えてみたいと思います。
